YouTuber 対 YouTube。許される動画の限界とは?

Business Insider から、YouTubeの審査基準が厳しくなって、かつて問題のなかったYouTuberたちの動画が、急に収益化NGになっているのではないか?という話題です。
YouTubeはコンテンツの提供者(YouTuber)・視聴者・広告主という3者の関係が生み出すエコシステムによって支えられています。
面白いコンテンツでなければ視聴者は増えず、広告主もつかない。
面白いが高じて過激すぎるコンテンツになってしまうと、視聴者は増えるかもしれないけれど、広告主は去っていく。
エコシステムを維持運営していくための、YouTube側の舵取りは楽ではないようです。

YouTuberたちがYouTubeに対して激怒?

YouTubeビデオをクリックすると、ビデオ再生の前にファブリーズやピューリナなどの15秒の広告を見せられることがよくあります。
しかし、このプリロール広告はいくつかの限られた動画にしかついていないことにお気づきではないでしょうか?
YouTuberはチャンネルの収益化の設定はオプトイン方式なので、YouTuber自らがマネタイズオプションをオンにすることにより、動画広告の再生から利益を得ています。
ビデオが始まる前に広告が流れ、「広告をスキップ」のオプションが出るまで私たちが為す術もなく待つ間に、彼らは私たちが再生することによって生み出される広告費の一部を得ているのです。
これが生み出すお金は一般的に少額ですが、YouTubeの上位のポピュラーなコンテンツクリエーターにとっては彼らの収入の相当な部分を占めていることがあります。

編集部補足
YouTubeは、ユーザー(チャンネル保有者)がアップロードした動画の再生前に、広告主が入稿した動画を流し込みます。
広告動画がスキップされなければ、広告費が発生します。
1視聴あたり、10-20円程度です。
この広告費がYouTubeとチャンネル保有者とでシェアされます。
YouTuberと呼ばれる人々の収入源の一つがこれです。

広告主に適したコンテンツのガイドラインとは?

ここのところ、多くのYouTuberたちは彼等のビデオの中に「アドバタイザーフレンドリーなコンテンツガイドライン(広告主に適したコンテンツのガイドライン)」に違反しているものがあると通達するメールが送られてくるようになりました。
YouTubeの利用規約によると、ビデオが「アドバタイザーフレンドリー」でない場合、収益化に不適格と見なされるのです。
それは下記のどれかに該当する場合です。

  • 性的な物を示唆するもの。ジョークも含まれる。
  • 重度の怪我や、極端に乱暴な行為を含む、暴力的なもの。
  • ハラスメント、冒涜、または卑猥を含む、不適切な言葉。
  • 販売、使用、乱用を含む、ドラッグや規制物質の奨励。
  • 戦争、政治的対立、自然災害や悲劇的な事件に関する事柄など、論争を招くようなデリケートな問題。たとえ、生々しい画像を見せていなくても該当。

「もしビデオに不適切な内容が含まれているとしても、それに報道価値がある場合、また滑稽である場合、さらに作者の意図が、視聴者に情報を与えることであったり、楽しませることにある場合(気分を害したりショックを与えたりするのでなく)、そのコンテンツは収益化の対象になりうる。」
とYouTubeはこれらのルールに但し書きをしていることを特筆しておきます。
これらのガイドラインは長いこと存在しているのですが、彼等のビデオがガイドラインに沿っていないとフラグ付けされることが、どんどん多くなっていると、大勢のYouTuberたちが感じています。
あるいは、彼等がそのことをたまたま今、多く語り出しただけなのかもしれませんが。
この議論へのレスポンスとなる「#YouTubeは終わったパーティー(楽しい時間は終わった)」というハシッュタグも流行しています。
party-is-over

YouTubeから届く、ガイドライン違反の通知

YouTubeは特段多くのビデオにNGの判定をしているわけではないと主張しています。
Business Insiderに提供された文書の中で、YouTubeのスポークスマンは「アドバタイザーフレンドリーなコンテンツに配慮した収益化制限のポリシー内容に変更はありませんが、私たちは最近、クリエイターたちとのより良いコミュニケーションを保つために、通知と再審査の手続きを改善させました」と告げています。


YouTubeからの通知の内容
Vlogbrothersさん、
収益化対象のビデオを提供していただき、ありがとうございます。
ビデオの内容にアドバタイザーフレンドリーではない内容が含まれているようなので、私どもはこのビデオを収益対象として承認しませんでした。
貴方がこのコンテンツがアドバタイザーフレンドリーであるとお考えでしたら、下記のビデオの見直しを要請することができます。

  • 性器の様に見える野菜。
  • Zaatari:ある難民キャンプからの思い。

見直しにかかる時間は確定されていないことをご承知ください。
また、YouTubeはビデオが収益化対象になるか否かの決定権を保有しています。
全てのビデオは私どもの利用規約とコミュニティーガイドラインと照らし合わされ、これらの基準に合致しないものは、サイトから排除されることがあります。
ありがとうございました。
YouTubeチームより

Hank Greenのコメント
Vlogbrothersはたぶん一番の爆笑ものの収益対象除外の通知を受けたと思う。
これは多様なコンテンツが影響を受けることを示している。

YouTubeによる検閲?

Philip DeFrancoという450万のチャンネル登録者を持つYouTuberは、最近の大袈裟な表現を使ったタイトル
YouTubeは私のチャンネルを閉鎖しようとしている。どうしたら良いのかわからない
というビデオでこの収益化拒否騒動を一種の検閲だと言っています。
YouTubeは彼のチャンネルを閉鎖したりはしないですし、前述したBusiness Insiderに提供された文章によると、最近「より良いコミュニケーションを保つために通知と再審査請求手続き」を確かに改善しました。
しかし、これがもとで、かえって収益化拒否ビデオに関する話題が増えたと考えられます。


Philip DeFrancoのコメント
Youtubeは今後ほとんどのおれの広告を削っちゃうんだろうな。あぁあ。
おれは自分のことを検閲しないよ。
当然、YouTubeはプライベートなプラットフォームなので、YouTube上のコンテンツをどう規制するか決める権利を有していますが、広告主が広告をどのコンテンツに掲載するかという問題については改善する余地があるのではないでしょうか。
現在行われているように、YouTubeが広告主の代わりに、年齢制限のあるコンテンツが有益化されるのを阻止するのでは無く、広告主自身が、どのビデオに彼等の広告が出るのかをコントロールできるようなツールを改良することができるのではないでしょうか。
編集部補足
YouTubeへ広告を掲載するには、純広告として出稿する方法、またはGoogle AdWords を通じて出稿する方法があります。
いずれの出稿方法にしても、特定の不適切な動画に対して広告を掲載しないように設定することは可能です。
ただし、不適切な動画を全てブラックリストとして検出することは難しく、完全な対策は無理というわけです。
反対に、「適切だ」と選んだ動画にのみ広告を掲載する事もできますが、これではもちろん、膨大なYouTubeのトラフィックを十分に活かせません。

YouTubeをより良い場所にするために、建設的な議論を

YouTubeで775万人のチャンネル登録者を持つFreddie Wong氏は、オンラインパブリッシングプラットフォームのMediumのポストで、何故彼が「検閲」に対して泣き言ばかりを言うのは間違ったアプローチだと思うのかを説明し、少し違った角度から広告に関しての議論を提唱しています。
「これは『検閲』という言葉の意味を単に議論しているのでは無く、その『検閲』という言葉を軽率に使った瞬間に、その会話は陳腐なものに成り下がってしまいます。
もう少し違う角度から考え、真に議論すべき問題がそこにあるのに。そこからクリエイターと視聴者がより理解を深めることができるかもしれないのに。」
と彼は言います。
この状況が更に発展するまでの間、YouTuberたちが自分のビデオが不当に収益化を拒否されたと感じた場合、その決定に対し異議申し立てをすることができます。
著名なYouTuberであるHank Greenはこの手法で彼のビデオに対する決定を覆したようです。


Hank Greenのコメント
Vlogbrothersはたぶん一番の爆笑ものの収益対象除外の通知を受けたと思う。これは種々のコンテンツが影響を受けることを示している。
YouTubeは我々が声を上げたらZataariのビデオをすぐに収益化対象外から外した。
しかし、この状況は大変に心配だ。

まとめ

言わずもがな、YouTubeは営利企業であるGoogleが運営しているプラットフォームです。
運営者の都合で突然ルールが変更されようとも、どうにもできません。
同様のことは検索連動型広告のGoogle AdWordsでも幾度となく起こってきました。
たとえば、従来広告出稿が可能だった業種が、広告掲載基準の変更により、ある日を境に広告が出せなくなる、といった具合です。
ゲーム・チェンジはプラットフォーマーの決定次第ですし、その日は突然に訪れます。
クリエイターはどういう態度で臨むべきか?
答えは、Freddie Wong氏の「クリエイターと視聴者がより理解を深めることができるかもしれない」という言葉にあるような気がします。
元来Googleは、ユーザーを第一に考えて、サービスを作っています。
クリエイターも人気が出るからと、いたずらに過激なコンテンツの制作に走るのではなく、本来ユーザーが求めているものは何かを考えるべきだということなのかもしれません。
一時的に人気が出たとしても、YouTube自体が不健全な場所という風になってしまえば、
親が子に見せたくない、とユーザーが去り、広告主も去ってしまいます。
と同時に、YouTubeという媒体の審査基準は常に一貫していて、公平であって欲しいとも思います。