インフルエンサー及びインフルエンサーマーケティングに関する論説はこのところ非常に増えている様に感じます。
そんな中で、目を引いた2つの記事を参照しつつ、インフルエンサーマーケティングの本質について考えてみたいと思います。
インフルエンサーマーケティングに関する対照的な評価?
しばらく前のことですが、DIGIDAYに掲載されたインフルエンサーマーケティングに関する2つの記事が話題になりました。
- 「インフルエンサーに金をかけすぎて下手こいた」:とあるソーシャルメディア部長の告白
- インスタでいま注目すべきは「マイクロインフルエンサー」:影響力が最大となる最適解
- インフルエンサーを見つけるための適正なプロセスが分からない
- インフルエンサーの適正な価格が分からない
- インフルエンサーや、そのエージェンシーのビジネスマナーが悪い
- 規模の小さなインフルエンサー(この場合はInstagrammer<インスタグラマー>)の方がファンとの結び付き・エンゲージメントが強い
- 同じ予算を投下するとしても、規模の大きなインフルエンサーに一点集中させるよりも、規模の小さなインフルエンサーを複数同時起用したほうが成果が上がる
- インフルエンサー・マーケティングを実施する目的が曖昧
- それが原因で、インフルエンサーの起用基準が定まらない
- 結果として、闇雲にフォロワー数が多いインフルエンサーを起用する。
- あるいはインフルエンサーに対する漠然としたイメージに頼って起用する。
- Selena Gomez(セレーナ・ゴメス) 9,800万人
- Taylor Swift(テイラー・スウィフト) 9,000万人
-
一方は、どちらかと言うとインフルエンサーマーケティングに懐疑的・否定的な記事。
もう一方は、インフルエンサーマーケティングに好意的な記事です。
インフルエンサーマーケティングの問題点?
一つ目の記事について。
「インフルエンサーに金をかけすぎて下手こいた」:とあるソーシャルメディア部長の告白
短い間にインフルエンサーに金をかけすぎた。2014年の時点では、現場で数枚の写真を撮ってもらうのに500ドル(約5万円)。それが1500ドル(約15万円)になり、いまでは数十万ドル(数千万円)だ。
このように記されています。
ただ、主に論じられているのは、「インフルエンサーをマーケティングに起用するのは無駄だ、ROIが合わない」という話ではありません。
どちらかと言うと、インフルエンサーを企業のマーケティングに起用する(起用する必然性がある)前提で、下記のようなことに対する問題点(あるいは恨み節)が提起されています。
とは言え、仮にインフルエンサーマーケティングが成功した、あるいは成功の実感があったのならば…。
苦労したとしても、そうそう文句を並べることもないはずです。
やはりこのようにインフルエンサーマーケティングを揶揄する背景には、
「こんなに苦労した上に、大金を払ってインフルエンサーマーケティングって効果あるの?」
というマーケッターの疑念が垣間見えるのです。
注目すべきはマイクロインフルエンサー!
二つ目の記事について。
たとえば、スポーツウェア会社がフォロワー数200万の著名なソーシャルメディアユーザーと契約した場合、多数のオーディエンスにリーチすることはできるものの、その9割はスポーツファンではない可能性がある。それなら、本当のスポーツ好きにフォローされている100人の自称アスリートと契約した方が理にかなっているというわけだ。
先の記事とは打って変わり、
「『マイクロインフルエンサー』なるものを起用するとソーシャル上で効果的なプロモーションができるよ」
という論説です。
インフルエンサーマーケティングに肯定的な内容です。
要約すると、次のようなことが述べられています。
「マイクロインフルエンサーの方がファンとの結び付きが強い、影響力が強い」
というのは考えてみれば当たり前の話で(親しい知人の口コミが信頼できるのと同じで)あるものの、改めてこうしてデータで示されると、非常に明快です。
そして、これこそがインフルエンサーマーケティングの本質なのではないかと考えられます。
本質的な、理想的なインフルエンサーマーケティングとは?
昨今、インフルエンサーマーケティングが日本でも企業のプロモーションに組み込まれることが一般化しつつあります。
一方で、次のようなことが起こりがちです。
もし、インフルエンサーマーケティングの目的が「多数の消費者へのリーチ」なのであれば、ジャンルを問わず「規模の大きなインフルエンサー」を起用するべきです。
一方でインフルエンサーが持つファンにしっかり見てもらいたいというのであれば、規模ではなく、「対象とするジャンルのファンとのエンゲージメントが強いインフルエンサー」を起用するべきです。
そして、よりインフルエンサーマーケティングの強みが発揮できるのは後者のパターンだと考えられます。
というのも、日本ではトップYouTuberでさえ、チャンネル登録者数350万人規模。
トップInstagrammerでさえ、ファン数500万人規模。
十分に「マスメディア」と呼べる規模ではあるものの、もっと「マス」な広告媒体(リーチに向いた広告媒体)は、テレビにもインターネットにも存在します。
先のマイクロインフルエンサーの事例が象徴的なのですが、
本来インフルエンサーマーケティングは、消費者に対して「深い」メッセージを送る、
消費者と「密な」コミュニケーションを取ることに向いた手法なのだと言えるでしょう。
日米のインフルエンサーマーケティング事情の差について補足
最後に日米のインフルエンサーマーケティング事情の差について補足します。
アメリカのインフルエンサーの規模は桁違いに大きい
例えば、日本で、Instagram 最大のフォロワー数を誇るのは、渡辺直美さんで500万人。
一方のアメリカでは…
日米の人口比を考慮しても、9,000万人を抱えるインフルエンサーはアメリカ市場では巨大メディアと呼べるでしょう。
マス広告的な起用のされ方が行われるもの頷けます。
また、Selena Gomez、Taylor Swift のようなスターはアメリカだけではなく、世界中のフォロワーを抱えているはずなです。
グローバル展開を見据えたプロモーションにも起用されうるでしょう。
アメリカの地理的な特性に由来するテレビ文化
地理的な特性、つまり国土が広いために、日本と異なり全国放送のTVネットワークというものが成立しなかった、
そして各地方ごとのケーブルテレビネットワークが発達した、とよく言われます。
つまり、全国的なTVスターが少ない、または全国規模のTVCMが成立しづらいと言えるかもしれません。
(もちろん全国規模どころか世界規模のスターであるハリウッド俳優はいますし、全米で観られるスーパーボウルというイベントもあるのですが)
アメリカではインフルエンサーこそがマスメディア
上記を踏まえると、アメリカではインターネットこそが最大のマスメディア足りうるという考え方もあるかもしれません。
したがって、先に挙げた記事のようなこともさもありなん、というわけです。
「インフルエンサーに金をかけすぎて下手こいた」:とあるソーシャルメディア部長の告白
この記事に登場するインフルエンサーマーケティングを「失敗例」として一蹴するのではなく、
インフルエンサーマーケティングのあらゆる可能性を探っていくことが、インフルエンサーマーケティングのサービサーには求められていると言えるでしょう。